広報誌 翠の輝(みどりのかがやき)コメントより

2021.04.01.

広報誌 翠の輝(みどりのかがやき)コメントより
 昨年に続き、今年も新型コロナウイルス関連のニュースで朝から晩まで過ごしていますとどんな人も心が折れそうになると思い、今回は、全く違う内容で少し紙面を埋めさせていただきます。『人生百年時代』と言われる日本ではもはや誰もが認知症になる可能性があります。厚労省によると「団塊の世代」が全員75歳以上となる2025年には約700万人、高齢者のじつに5人に一人が認知症になると推計されています。先日、長谷川式知能スケールを開発し、痴呆から認知症への呼称変更に関する国の検討会委員を務められた日本認知症学会のレジェンド医師(長谷川和夫先生)の本を読みました。遥か昔、私の学生時代には既にバイブルのように先生の本がありましたが、今回は自らが認知症と宣言されての出版で衝撃がありました。私自身、毎日認知症の人と接する仕事であり、今一度考えさせられたことを記したいと思います。まずは、印象に残る言葉は「認知症になったからといって人が急に変わるわけではない。自分が住んでいる世界は昔も今も連続しているし、昨日から今日へと自分自身は続いている」と言われます。また「認知症は暮らしの障害」とも言われ障壁を取り除く知恵や工夫が周囲の人間や社会には求められ、その際の根幹理念が、「パーソン・センター・ケア(その人中心のケア)」と言われます。一緒に暮らす家族や周囲の環境によって「手がかかる問題の多い人」になったり、「普通とは違うけれど個性的な人」になったりしています。言い換えれば、認知症の人は周囲の人間や社会の寛容さ、包摂する力の有無や程度を映し出す〈鏡〉のような存在だともいえるかもしれません。さらに、抗認知症薬の治験統括医師まで務めた先生が、薬の開発は必要だが、副作用のことも含めよく考えて開発にあたるべきと言われます。つまり、薬だけに頼るのではなく「認知症になっても大丈夫」という安心ケアを地域ケアで担うことこそが重要なのではないかと提唱されています。また、ご存じの通り、認知症には種類(アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症・血管性認知症等)があり早期の専門医による診断が何より重要と先生はいわれます。自分自身がまだ記憶が失われない前に色々な準備が出来ますし、中には正常水頭症のように治る可能性のある病気と間違われていることもあります。以下2019年5月WHOが公表した認知症になるリスクを減らす為の初ガイドラインを挙げます。
【①運動 ②禁煙 ③栄養 ④飲酒 ⑤認知機能トレーニング ⑥社会参加 ⑦減量 ⑧高血圧 ⑨糖尿病 ⑩高脂血症 ⑪うつ ⑫難聴・・・このリスク項目12への介入と推奨の度合いを示しました。】
 最後に、認知症になっても尊厳をもって接すること、子ども扱いや色眼鏡で見ずに真摯に向き合うことがとても重要であり、私自身も反省させられた一冊でした。

山翠苑 施設長  水島 尚子

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